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研究内容

1:ヒト乳頭腫ウイルスによる子宮頸癌の発癌メカニズムの解析

子宮頸癌の発症にはヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の感染が原因です。現在までに100種類以上のHPVが同定されていますが、子宮頸癌などの悪性腫瘍の原因になるのはハイリスク型HPVと呼ばれています。日本人の子宮頸癌の原因はその中のHPV16型、18型で約65%を占めています。私たちの研究室ではこのハイリスク型HPVの発癌機序を分子生物学的に解析しています。HPV18型はfigure1に示す様に初期遺伝子(E)と後期遺伝子(L)をコードし、発癌には特に初期遺伝子の中のE6,E7が重要と考えられています。子宮頸癌は病理学的にはfigure2に示す様に始めにハイリスク型HPVが基底細胞層に感染し、軽度異形成、中等度異形成、高度異形成を経て上皮内癌に至ります。HPVが感染し、中等度異形成までは、HPVはいまだヒトの染色体には組み込まれずepisomalな状態で増殖し、やがてヒト染色体に組み込まれて(integration)、高度異形成、上皮内癌、浸潤癌へと進行してゆきます。

 

  

 

私たちの研究室ではハイリスク型のHPVのE6,E7がどのような機序で悪性腫瘍を発症させるのかを研究しています(figure3)。その1例としてHPV18型E7と結合する新規のタンパク質として動原体の構成要素の1つであるCENP-C(centromere protein-C)を酵母のtwo-hybrid systemを用いて同定しました。Figure4に示す様にCENP-Cは倍加した染色体を均等に娘細胞に分配するのに必須の蛋白質であることがすでに知られていて、HPV18E7がCENP-Cと結合することにより、細胞の分裂期に均等な染色体の分配がなされず、最終的には染色体の不均等な分配によりaneuploidyとなった細胞の一部が悪性化することを明らかにしました(Figure5)。

 

PICT-1の構造異常を解析している課程で、私たちはPICT-1のコドン389番目が野生型ではグルタミンであるのがアルギニンへの変異を見る遺伝子多型が子宮頸癌のリスクファクターになっていることを手術時に摘出された手術検体を用いた研究から明らかにしました。

2:PICT-1による子宮頸癌の発癌メカニズムの解析

子宮頸癌の発症には上で述べたハイリスク型HPVの関与以外にも種々の遺伝子が関与しています。私たちの研究室では癌抑制遺伝子の一つと考えられているPICT-1についても子宮頸癌での役割を解析しています。PICT-1は13個のエクソンからなり、私たちの遺伝子変異の解析から、エクソン4とエクソン9にミスセンスを認め(下図)、これらの領域は癌抑制遺伝子のp53の安定化に関する領域、PTENの安定化に関与する領域であり、私たちが見いだしたPICT-1の異常がp53やPTENの安定化に関与している可能性が考えられます。

 

私たちが子宮頸癌で見いだした変異、多型がPICT-1の機能に影響するかどうかをPICT-1のp53の分解抑制機能に着目して解析を行ってみました。用いた細胞はHT-3株、HeLa株という子宮頸癌の患者様から樹立された子宮頸癌細胞株で、HT-3株はHPVが組み込まれていない子宮頸癌細胞株です。それに対しHeLa株はハイリスク型HPVが染色体に組み込まれていて、恒常的にE6、E7を発現している細胞で、子宮頸癌のモデル細胞として研究に良く用いられる細胞です。野生型のPICT-1とp53をHT-3に遺伝子導入するとp53の分解は抑制され、コドン389番目がグルタミンであるのがアルギニンへの変異を見るQ389RPICT-1を遺伝子導入するとp53の分解抑制機能の減弱が見られました(左図A)。野生型のPICT-1をHeLa細胞株に遺伝子導入し、強制的にPICT-1を発現させると、内因性のp53の分解が抑制されましたが,コドン389番目がグルタミンであるのがアルギニンへの変異を見るQ389RPICT-1を遺伝子導入するとp53の分解抑制機能が減弱していました(左図B)。また癌細胞においてPICT-1の発現がどうなっているかをWestern blotという手法を用いて解析すると子宮頸癌細胞ではPICT-1の発現が著明に減少していることがわかりました。以上の実験結果から私たちはハイリスク型HPVによる子宮頸癌細胞においてはPICT-1の発現減少により、PICT-1のp53の分解機能が抑制された結果、p53の量的減少を招き、p53の癌抑制蛋白としての機能が減弱が発癌に関与すること、また遺伝子多型であるQ389RPICT-1はp53の分解機能の抑制の減弱が子宮頸癌の発癌リスクになることを明らかにしました。

3.卵巣癌の発癌機序の解析
卵巣癌は婦人科癌の中では最も予後が悪く、スクリーニング法を含めた早期診断法、新たな治療薬の開発などが求められていますが現状はそう簡単には行きません。そのためには卵巣癌の発癌機序の解明がまずなされなければなりません。私たちの研究室では卵巣癌の発癌機序を病理組織学的、分子生物学的に解析しています。現在までに卵巣癌の発生機序については漿液性癌ではfigure6に示す様に卵管上皮からp53BRCA1/2の変異、RbPI3k/Akt経路異常などを経て高異型度漿液性癌に至る機序や卵巣上皮からk-ras BRAFERBB2p53変異を経て低異型度漿液性癌に至る経路などが考えられている。また類内膜癌や明細胞癌に関してはfigure7に示す様に類内膜癌では子宮内膜症が発生母地となりunopposed estrogenの状態に、ARID1Aの変異、PIK3K/Akt経路の異常を経て類内膜癌に至り、また明細胞癌ではHNF-1betaの過剰発現、ER発現減少、ARID1Aの変異、PIK3K/Akt経路の異常を経て明細胞癌に至ることが明らかになっています。
 

私たちの研究室では卵巣癌についてその発癌機序を病理組織学的、分子生物学的に研究しています。その1例を紹介します。Figure8は粘液性腺腫(良性)、figure9は粘液性境界悪性腫瘍、figure10は粘液性癌(悪性)の病理組織像です。Figure8-10は卵巣の粘液性腫瘍のICBP90, NIRFタンパク質の発現を免疫組織学的に解析したもので、ICBP90の発現は悪性度が増すに従って発現が増加していました。またNIRFの発現は正常組織から悪性度が増すに従ってその発現の減少が見られました。

Western blotの解析からは解析した全ての検体においてNIRF(左下図)の発現の減少が見られました。またICBP90に関しては解析した大部分の検体で発現が増加していました。以上の免疫染色とWestern blot解析の結果から私たちは卵巣腫瘍の粘液性腫瘍についてはNIRFの発現低下、ICBP90の発現増加が腫瘍の発生、進展に重要であると考えています。さらにICBP90は従来より診断に用いられてきたMIB-1よりも悪性度との相関が高く、今後臨床診断への応用を踏まえた検討をしていく予定です。

 

以上が私たちの研究室で行っている研究のごく一部を簡単に説明いたしました。この他にもいくつかのプロジェクトが進行中ですので、興味のある方はお気軽にお問い合わせ下さい。

 

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